シロアリ駆除・住まいの害虫防除 阪神ターマイトラボ (兵庫県西宮市)
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ボタン アメリカカンザイシロアリの生態
アメリカカンザイシロアリ(Incisitermes minor (Hagen))は、1970年代中頃から北米輸入建材や家具材などとともに移入したものと考えられています。
一般的には散発的に生息していると考えられていますが、当社の独自調査ではすでに日本全国、薄く広く生息しているものと考えられます。
地域によっては、限定的な集落として生息している場合もあります。
これはアメリカカンザイシロアリの生息が確認できるまでに、数〜数十年の期間を要するためです。
関西地区では、兵庫県(1979年)、和歌山県(1980年)、大阪府(1992年)、京都府(2005年)、滋賀県(2014年)にアメリカカンザイシロアリの生息が確認されています。

1.アメリカカンザイシロアリの特徴
アメリカカンザイシロアリは、その名の通り乾材(乾燥した木材)に生息しています。
特別に加工した巣を作らず、木材中に孔道を掘って生息しています。
孔道の中では、少ない場合には数頭、多い場合には数千頭生息しています。
これらはコロニー(集団)として生息していますが、一つの木材にコロニーが複数存在するのが、アメリカカンザイシロアリの特徴です。
木材内部の孔道は、一見つながっているように見えますが、内部では糞や木材を噛み砕いたもので壁を作っています。
これら孔道をつくるのは擬職蟻と呼ばれる階級が行います。
擬職蟻は羽アリや兵隊アリになることができる階級です。

アメリカカンザイシロアリの擬職蟻、兵蟻、落翅虫
アメリカカンザイシロアリの有翅虫(羽アリ)
アメリカカンザイシロアリも他のシロアリと同様に羽アリ(有翅虫)が出ますが、その数は比較的少なく、場合によっては数頭しかでない場合もあります。
羽アリの発生する時期については、6〜9月の日中と記載されている資料を見掛けますが、当社で飼育・観察しているアメリカカンザイシロアリでは、春夏秋冬に関係なく発生しています(ブログ:シロアリ調査隊をご参考下さい)。
実際にアメリカカンザイシロアリが生息している家屋では、羽アリの発生する時期は比較的固定されている傾向にあります。
但し、発生する時期は隣接した物件でも異なる場合があります。
羽アリが群飛したあと、切離線から羽根を落とすと落翅虫と呼ばれます。
この落翅虫が、新たなコロニーを創出します。
落翅虫のオスとメスはペアとなり、木の中に潜るため穴を開けます。
この時、木粉が発生しますので、アメリカカンザイシロアリの侵入の目安となります。
また、同時に同じ大きさの翅が落ちているので、ヒラタキクイムシと区別しやすくなっています。
木材内部でやがて産卵を始めます。
王と女王になったオスとメスは幼虫の世話や餌の採取など比較的自分で行います。
木材の中の孔道は、その範囲を広げていきますが、古くなった孔道に大量の糞を詰めます。
これら糞が溜まると、排出や振動などによって外へ出され、糞の存在に気付くこととなります。
木に潜り込む落翅虫(羽根を落とした羽アリ)
アメリカカンザイシロアリの羽アリは翅を落としたあと、比較的近くの木に潜り込むため、イエシロアリやヤマトシロアリなどの羽アリに比べると、遥かに高い確率で営巣します。
アメリカカンザイシロアリの駆除現場で被害部を確認した際、1箇所の孔道で複数の落翅虫を見かけることがあります。
アメリカカンザイシロアリの糞(左)と侵入時に見られる木粉(右)
振動によってこぼれ出た糞は比較的散乱しますが、排出された糞は円錐状に積まれる傾向にあります。
これは、孔道内部に糞が溜まってくると、擬職蟻が口や足を上手く使い、外へ押し出します。
毎日掃除を行っても、砂が積み上げられるように溜まるのは、これら糞の排出行動によるものです。
アメリカカンザイシロアリの被害は木部の深いところで進行する場合が多いため、発見が遅れがちとなります。
重要なのは、糞の存在です。
一見、砂粒のように見えますが、左の写真の通り俵型をしており、わずかにくぼみがあるのが特徴です。
また、木粉と落とした翅は早期発見のポイントなので、十分注意が必要です。
アメリカカンザイシロアリは名前の通り、乾燥した木材に生息しています。
但し、生きている昆虫である以上、水は必須成分です。
木材中の水分を利用していると言われていますが、飼育観察しているアメリカカンザイシロアリでは、水を与えるとすぐに飲みにきます。
これらのことから、実際の家屋で被害を受けている部位を見ると、垂木の屋外部分や戸袋、軒桁、窓枠など雨がかり部分が比較的多くなっています。
乾材シロアリと名前がついているから、水のかからないところなどに生息しないと考えるのは大変危険です。
水を飲むアメリカカンザイシロアリ擬職蟻
アメリカカンザイシロアリは、まだまだ生態研究の進んでいない昆虫です。人間が都合よく『乾燥した木材に被害を与えるシロアリ』と考えてはいけないのです。

2.アメリカカンザイシロアリの被害
アメリカカンザイシロアリの被害は、木の内部で孔道が作られます。
表面上に被害が見えないため発見が遅れがちになります。
右の写真は床と壁との継ぎ目で、壁の最下部に取り付けられている細長い横板である巾木への被害状態です。
ヤマトシロアリなどでは、柔らかい部位など食害する傾向にありますが、アメリカカンザイシロアリでは食害を及ぼす部位に法則性はありません。
アメリカカンザイシロアリが食害する木材の樹種について研究機関による調査では、スプルースやベイツガ、ヒノキなどが摂食され、ブナやカラマツ、ベイスギなどが摂食されにくいデータがあります。
但し、実際に被害のある家屋を見ると、法則性はありません。

アメリカカンザイシロアリの食害を受けた巾木
アメリカカンザイシロアリの生息は糞の発見が第一です
被害の多くは、糞の発見堆積によって気付きます。
被害を受ける部位は、小屋裏から床下まで広範囲に広がります。
木質系材料を使った家具にも、注意が必要です。
アメリカカンザイシロアリの生息地域が拡大する要因の一つとして、生息している家具に伴って移動する場合があります。
完全に駆除できているかどうかを確認した上で、移動させる必要があります。
駆除しきれない家具については、焼却処分するか、燻蒸処理されることをお薦めします。
リフォーム時に発生する廃材についても注意が必要です。
アメリカカンザイシロアリの擬職蟻は、切り取られた木材から速やかに逃亡しようとします。
そのため、リフォーム業者さんにもアメリカカンザイシロアリをよく知って貰う必要があります。
右の写真は、アメリカカンザイシロアリの脱糞孔です。
普段は、糞や木材を噛み砕いたもので詰められています。
糞を排出する際、一時的に詰め物を取り除いて、糞を排出します。
1〜2mm程度の穴で、糞が溜まっている場所を丹念に探すと見つかります。
羽根を落とした羽アリが木材内部へ侵入する際、この脱糞孔を利用する場合があります。
この場合、木粉は確認されず、翅だけが落ちている状態となります。
糞のたまっている付近の木部を調べると脱糞孔が確認されます
糞の位置と生息位置は必ずしも一致しません
糞が出ている場所と、アメリカカンザイシロアリの生息場所は一致する訳ではありません。
隣接する脱糞孔から薬剤を注入した際、遠くの脱糞孔から薬剤が流れ出したものの、隣接する脱糞孔からは薬剤が流れ出ない事例がありました。
脱糞孔が近いからといって、内部でつながっていると勝手に判断することは危険です。
アメリカカンザイシロアリが生息している否かを判断するのは、AE(アコースティック・エミッション)を用いたシロアリ探知機などを活用すると判断できます。
左の写真のようなマイクロウェーブを用いた非破壊シロアリ探知機を活用すると、生息位置を特定することができます。
但し、こうしたシロアリ探知機は誰でも簡単に使える機器ではなく、知識と経験がなければ誤った判断をしてしまう機器ですので、注意が必要です。

3.アメリカカンザイシロアリの駆除
建物からアメリカカンザイシロアリの全てを駆除する方法として、燻蒸(くんじょう)という方法があります。
この方法は、家屋をすっぽりとシートで密閉させ、フッ化スルフリルやヨウ化メチル、酸化エチレンなどのガス製剤を充満させ、木材内部までガスを行き渡らせることによってアメリカカンザイシロアリを駆除する方法です。
この方法では、処理するためのスペースが必要なため、都市部の住宅密集地では実質作業が不可能です。
また、ガスの毒性問題や処理時間の長さ、処理コストが非常に高いといった問題があります。
しかも燻蒸処理には予防効果は全くありませんので、周囲にアメリカカンザイシロアリの発生場所があれば、再侵入する可能性も高く、定期的な再処理を考えておく必要があります。
現在、当社やシロアリフォーラムのメンバーが行っている方法として、長期に渡る定期駆除点検管理があります。
この方法では、アメリカカンザイシロアリ生息部の調査と必要最小限の薬剤を用いた部分的な駆除を繰り返すことで、生息密度を落としながら対応する方法です。
マスメディアでアメリカカンザイシロアリに要する費用が800万円と報道されましたが、あれはリフォームを含めた費用であり、1回の処理では数万円〜十数万円が一般的です。
気を付けなければならないのは、無数に穿孔を行い薬剤を注入する行為です。
室内で処理される場合の多いアメリカカンザイシロアリの駆除現場では、如何に薬剤を少なく、効率的に処理するのがポイントです。
沢山の穿孔処理は、薬剤曝露を引き起こすだけで、プロのシロアリ防除業者のすることではありません。

4.アメリカカンザイシロアリの予防
近隣にアメリカカンザイシロアリの生息が確認されていない場合、アメリカカンザイシロアリが生息する木質系材料を持ち込まないことが重要です。
新築時の木材は勿論、輸入家具からも発見された例もあるため注意が必要です。
新築時の対策として、加圧注入木材の使用が挙げられますが、建築時に使用する木材全てに加圧注入木材を使用するのは不可能です。
また、薬剤による処理は処理範囲に限界があるとともに、お住まいの方への曝露が問題となります。
薬剤曝露の危険性が少ないものとしてホウ酸が挙げられますが、ホウ酸処理した木材をアメリカカンザイシロアリが生息している現場に置いたところ、処理したにも係わらず穿孔・侵入され、生息が確認されたことから効果を過信してはいけません。
アメリカカンザイシロアリの予防としては、定期点検による早期発見が実質的です。
点検調査は室内だけではなく、小屋裏なども対象となります。
近隣にアメリカカンザイシロアリの生息が確認される場合、羽アリ対策が重要となります。
屋外からの侵入口及びその周辺、小屋裏や1階天井裏など落翅虫の活動場所へ薬剤処理することにより、羽アリの定着を阻止することは有効です。
但し、使用する薬剤や濃度を十分考慮しないと効果不足となったり、逆に薬剤曝露の影響を受けてしまうため細心の注意が必要です。
アメリカカンザイシロアリの駆除とも共通しますが、アメリカカンザイシロアリの生息場所が容易に点検できる構造にしておくことが予防手段として最も重要です。
点検できない構造にしてしまうと、駆除にしても羽アリ対策も施すことが困難となります。
1階天井裏や小屋裏など、作業のできるスペースと足場の確保が重要となります。


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